黒字倒産はなぜ起きるのか?その仕組みや注意点を実際の事例を交えて解説

資金調達手帳

帳簿上は黒字なのに経営が破綻する黒字倒産。防ぐ方法や事例などについて解説します。


黒字倒産とは、利益自体は黒字であるものの、資金繰りがうまくいかず倒産に追いやられるものを指します。
帳簿上では問題がないため、黒字倒産のリスクに気付きにくいパターンは多くあります。黒字倒産に陥らないようにするためには、キャッシュフローと在庫の管理が重要です。

また、黒字倒産を防ぐために、いくつかのチェックポイントが存在します。
今回は、黒字倒産の仕組みや、回避するためにチェックするポイントを、実際に起こりやすい事例と合わせて解説します。

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

黒字倒産とは何か


そもそも、黒字倒産とはどのような状態なのでしょうか。

倒産の定義について

倒産とは、一般的に会社が追っている債務の返済が行えなくなるなど、支払い能力を失って資金繰りが立ち行かなくなった状態です。
もともと、倒産は法律に定められた言葉ではありませんが、倒産後の整理方法を法的とするか私的とするかで手続きに違いがあります。

・法的整理
倒産整理は、法律で定められた手続きを行うものです。
財産を清算して事業を終了させる「清算型」と、事業を継続させながら第三者を介して再生を目指す「再建型」に分けられます。

・私的整理
債務者と債権者で協議し、倒産の整理方法を選ぶものです。
手形などの不渡りを一定の期間・回数出した場合の「取引停止処分」と、協議の上で清算処理をする「任意整理」があります。

黒字倒産に陥る状態とは

黒字倒産は、帳簿上では問題なく利益を得ているにもかかわらず、費用の支出を行うだけの現金が手元にないことで、支払い能力がなくなってしまう状態です。
典型的な例では、売掛金入金が支出に間に合わない、もしくは売上げが奮わず不良在庫を抱えてしまうなどの状況が挙げられます。
特に、起業したての会社の場合、売上げの現金化が先延ばしになり、手元の現金が枯渇しやすい傾向にあるため、黒字倒産に追い込まれやすいといわれています。

黒字倒産をした企業は意外と多い

株式会社東京商工リサーチでは、倒産した会社の状況を調査しています。
この調査によれば、2020年に倒産した7,773件のうち、黒字倒産に陥った会社は46.8%で、全体の実に5割近くにあたります。

つまり、赤字倒産をした会社と割合がほぼ変わらない計算であり、黒字倒産に追い込まれる会社が意外と多いことがわかるでしょう。

必ずしも赤字だから倒産するわけではない

倒産と聞くと、赤字を出したことによるものと考えられがちですが、赤字だからといって倒産するとは限りません。

例えば、ある月の売上げがゼロだったとすると、その月の損益は赤字です。しかし、その月の支払いを行うのに足る資金が手元にありさえすれば、資金繰りは順調に回ります。
このようなケースでは、次月に売上げをしっかり上げることで、倒産を回避できます。

黒字倒産はどのようにして起こるのか


こちらでは、黒字倒産が起こるパターンについて挙げていきます。

黒字倒産の典型的な形

例えば、当月の売上げが90万円あったとします。この月の仕入れにかかる費用が60万円だったとしても、帳簿上では30万円の黒字が出ているはずです。
しかし、この売上げを売掛金処理し、回収が2カ月後だとすると、売上げを90万円上げた月でもその売上げ金は手元には入っていません。
この時点で、資金にはマイナスが出て、本来支出すべき金額が足りなくなります。

また、在庫を大量に抱えている場合には、帳簿上で黒字が出ていても、そこに在庫分にかかった費用が計上されないものがあります。
この場合にも、帳簿上は黒字であるはずが、実際の資金は不足している事態に気付きにくいものです。

上記の状態により、資金繰りがうまく回らず会社の経済状況が悪化することから、帳簿上で黒字でも経営が立ち行かなくなる=黒字倒産が起きます。
一見しただけでは黒字倒産とわかりにくい例として、不良在庫を抱えたケースを以下に見てみましょう。

・損益計算書における状態
損益計算書では、売上げと売上原価を比較して損益を算出していますが、在庫分にかかる売上原価は計上されません。

例えば、仕入れ値の単価1万円の商品を100個仕入れたとすれば、仕入れ値の合計=売上原価は100万円です。
そして、この商品を1万5,000円で60個売ると、売上げは90万円と計算できます。この時、損益計算書における売上原価は、100万円ではなく60万円と計上します。
これにより、損益計算書上では利益は以下のように計算されます。

売上原価→1万円×60個=60万円
売上げ→1万5,000円×60個=90万円
利益→90万円(売上高)-60万円(売上原価)=30万円

・キャッシュフロー計算書における状態
一方、キャッシュフロー計算書では、あくまで現金の流れを示すため、売上原価のすべてが記録されます。そこで、キャッシュフロー計算書では、以下のように記載されます。

売上原価(支出)→1万円×100個=100万円
売上げ(収入)→1万5,000円×60個=90万円
収支→90万円-100万円=▲10万円

つまり、損益計算書では黒字が出ているのに、キャッシュフロー計算書では赤字であるというねじれが起きます。

黒字倒産が起こる理由について

収支の管理ができていない

売上げに対する支出のバランスを管理できていないため、いつの間にか資金が枯渇していることに気付かないケースです。
特に、以下のケースがよく見られます。

  • 売掛金の支払いサイクル(支払いサイト)を読み間違えて、売上げの現金化が先延ばしになる
  • 収益化の見込みがある仕入れ数を見極められず、大量の仕入れを行ったり、収益化しにくい商品を仕入れたりする

不良在庫を抱えている

上記の例の中で、収益化しづらい商品を不良在庫として抱え続けていると、いつの間にか黒字倒産の危機に瀕していることも少なくありません。

このような状況が起こるのは、徹底した在庫管理を行わないことで、仕入れのバランスを取れなくなっているためです。
どのようなものがどれだけ売れ残り、いくらの損失があるのかを把握しなければ、健全なキャッシュフローを回すことにつながりにくいでしょう。

収支や在庫状況を知る交叉比率について

収支や在庫状況が健全か否かを判断する基準として、交叉比率と呼ばれる数値が用いられることがあります。
交叉比率とは、粗利率×在庫回転数で求められるものです。在庫回転数は年間の商品売上高÷年間の平均在庫金額で計算します。
交叉比率は、高いほど収益性が高く安全であると判断できます。交叉比率の数値が100%以上だと健全な経営の目安とされ、100%を下回る場合には注意が必要です。

例えば、粗利率10%×在庫回転数5回=50%であり、経営状況は厳しいといえます。
一方、粗利率5%×在庫回転数30回=150%となることから、粗利率が高くても在庫回転数が少なければ黒字倒産のリスクは十分ありえます。

黒字倒産のリスクを確認する方法とは


黒字倒産のリスクに直面していないかを確認するには、以下の書類をチェックします。

損益計算書で収支情報を見る

損益計算書は少し前述しましたが、収支情報をよくチェックすることが重要です。この帳票での損益は、実際のキャッシュフローと一致するわけではありません。
そのため、収支のバランスを見極めることが重要といえます。

損益計算書について、詳しくはこちらの記事で紹介しています。
損益計算書とは?5つの利益を知れば経営状況が見えてくる

貸借対照表で自己資本比率を見直す

貸借対照表で見るべきは、純資産と負債のバランスです。純資産には、自身の出資金に加えて株式などで得た出資金も含みます。
そして、純資産÷(純資産+負債)×100の計算式により、自己資本比率(%)を算出します。自己資本比率は、純資産と負債のバランスを見るために有効な指針です。

自己資本比率は、一般的に中小企業では15%程度あればまずまずの数値とされているため、一度貸借対照表で確認することをおすすめします。

貸借対照表について、詳しくはこちらの記事で紹介しています。
貸借対照表とは? 見方やルールなど7つのチェックポイントで、倒産リスクを分析しよう!

キャッシュフロー計算書で2つの比率を確認する

黒字倒産のリスクが最もわかりやすい帳票が、キャッシュフロー計算書です。この帳票では、以下の比率について確認します。

自由資金比率

自由資金比率(%)を求める式は、フリーキャッシュフロー(会社が自由に使える現金)÷自己資本増加額×100です。
フリーキャッシュフローは、営業活動で得るものと投資で得た配当金を含みます。

ここで出た数値は、会社のキャッシュフローにどれくらいの余裕があるかを示し、一般的に、自由資金比率は40%以上あれば安全とされています。

当座比率

当座比率(%)は、会社が持つ流動資産から、即現金化できる資金がどれくらいあるかを見る指針です。
計算式は、当座資産÷流動負債×100です。当座資産とは、流動資産の中で特に現金化しやすい資産(現預金・売掛金など)を指します。
この数値により、会社の支払い能力を測ることができ、100%を越えれば余裕があるものとみなされます。具体的には、130%以上あれば問題ないでしょう。

キャッシュフロー計算書について、詳しくはこちらの記事で紹介しています。
キャッシュフロー計算書(C/F)とは? 起業家が資金繰りでキャッシュフローを増やす5分でわかる簡単まとめ

税金の支払いは専門家に相談する

黒字倒産のリスクで考えるべき事案のひとつに、税金が挙げられます。税金は、支払い義務が法律で定められていることから、清算ができない支出です。
債務の支払い能力がなくなると、もちろん税金の支払いも滞ります。そのため、少しでも負担を減らせる節税対策は普段から抜かりなく行っておくことが大切です。

節税対策には様々なものがありますが、一般的な経営者は活用できる制度などの知識はあまりつけていない場合もあるかもしれません。
通常時からの節税対策は税理士に相談し、黒字倒産をした際の税金支払い期日の延長方法など、各種対策のアドバイスをもらうのも対策のひとつです。

黒字倒産を起こさないための注意点とは


黒字倒産を起こさないためには、どのような点に注意すれば良いでしょうか。

キャッシュフローを適切に管理する

前述のように、会社の現金の流れを手早く知るには、キャッシュフロー計算書の確認が重要です。単なる損益だけではなく、まずは収入と支出のバランスをしっかり確認します。
その上で、支出が多くなりそうな月には資産の現金化の資金繰り対策を早急に講じるべきです。

また、収支バランスが悪くなった原因も、速やかに探るようにします。

売上げと経費のバランスを調整する

当たり前の話ですが、売上げをいくら上げても、仕入れなどの経費がかさんでいては利益が出ません。
そこで、より利益を得られるよう、売上げと経費のバランスを取ることも大切です。
高い利益率を打ち出せられると、その分多くの利益を得てキャッシュフローにも余裕が出ている目安になります。
債権の回収トラブルが発生しても、利益によりキャッシュフローが潤っていれば対処できます。

不良在庫を処理する

売上げにつながらない不良在庫を抱えていると、売上げ原価に対して売上げが追いつかなくなり、キャッシュフローに影響を及ぼします。
大量に在庫がある場合は、早急に在庫を販売する対策を講じ、また今後の仕入れ数についても見直しを行うべきです。
刻々と変わる市場において、長期的に保存している在庫ほど売れなくなってしまう場合もあるため、注意が必要です。

在庫管理の方法について

発注量を適切にコントロールして在庫管理をするためには、以下の方法から自社に合ったものを選択してください。

・定期発注方式
発注を行う期間を定め、発注ごとに数をコントロールする方法です。比較的簡単に行えますが、発注数を誤ると不良在庫を抱えやすくなります。

・定量発注方式
発注の期間を流動的にし、決められた量まで在庫数が減った時にその都度発注する方法です。
売行きによって発注数を測りやすいものの、こまめな発注回数やチェックが求められます。
いずれの方法を採るのにしても、過去の商品の売行きから今後を予測し、在庫の保管数を正しく算出する必要があります。

売掛金・買掛金の支払いサイトを見直す

売掛金や買掛金を現金化するまでのサイクルを、支払いサイトといいます。
特に、売掛金の支払いサイトが長期的になると、現金化まで時間がかかり、手元の現金が枯渇する恐れが高まります。

一時的な措置になりますが、逆に買掛金の支払いサイトを長期とすれば、支払いの先延ばしが可能です。
そのため、より有効な策は、売掛金の支払いサイトを見直し、取引き先別に売掛金が確実に回収できるかを検討することです。

前受金を活用する

上記のように、売掛金の支払いサイトが長い場合や、回収できないリスクがある場合は、あらかじめ前受金を受け取るのもひとつの方法です。
また、納品までの工程が長い業種の場合にも、前受金をもらっておくことは有効です。これにより、売掛金の全額を回収できないリスクを少し減らせます。

無理のない資金調達を考慮する

自社内の対策を講じた後には、何らかの方法で資金調達を行います。
ただし、この時にやみくもに金融機関から借入れを行うと、後々の返済で苦しむ状況を引き起こしかねません。
黒字倒産目前の時点ですでに銀行に借入金がある場合、返済期間や金額の調整の相談に乗ってくれるところもあります。

相談すれば必ず対策を講じてくれるわけではなく、会社でできうる策を講じた上で、事案が発生した原因究明や今後の返済計画を明確にしておくべきでしょう。

資産の売却などを行う

会社が所有する資産の中で、現金化できるものがあれば迅速に売却して現金を得る方法もあります。
迅速な資産の現金化には、事業に影響を与えず使用していない不動産のような固定資産の売却、また事業とは別の預金を引き出すなどの方法が挙げられます。

M&Aを考慮に入れる

以上の対策を行った上で、それでも黒字倒産を避けられない事態に陥った場合は、事業を他社に譲渡するM&Aも考慮に入れます。
これにより、ある程度まとまった金額を現金にできるほか、事業を末永く継承できるメリットもあります。

実際に黒字倒産をした事例について


実際に黒字倒産を引き起こした代表的な企業のパターンとは、どのようなものでしょうか。

海外との取引きで資金繰りが圧迫される

ある薬品製造会社は、業績を順調に伸ばしている中で黒字倒産に追い込まれています。
その企業では、経済状況が好調だった中国に子会社を構えましたが、その子会社でのずさんな資金繰りがあだになったといわれています。

当該ケースでは、損益計算書では優れた業績を示していましたが、中国の子会社における売掛金の管理が不十分で、大口の売掛金未回収を起こしました。
その結果、売上げを上げているのに会社の現金が枯渇し、黒字倒産に至りました。

不良在庫が膨れ上がってしまった

不良在庫を大量に抱えてしまい、黒字倒産に陥った例を紹介します。

ある不動産会社は、損益計算書上では業績好調であったものの、市場のニーズが悪化した後も、好調時の感覚のまま次々に物件を購入します。
その結果、大量に物件を買い付けるにもかかわらず、売却するペースは落ちているため、物件の在庫だけが膨れ上がっていきました。
状況に気付いた経営者は、数々の金融機関からの融資を受けましたが、最終的に負債だけが増え返済もままならなくなったことで、黒字倒産をする結果になりました。

まとめ

黒字倒産は、帳簿上で黒字でもキャッシュフローに問題がある場合に起こりえます。
収支バランスの悪さや不良在庫の管理不足が原因で、これらのチェックを怠ると、いつの間にか危機に瀕しているケースも少なくありません。

黒字倒産を回避するために、損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書で、収支や現金の流れをしっかりと把握するのが大切です。
今回紹介したチェック方法や事例を参照し、黒字倒産に陥らない経営を見直しましょう。

創業手帳の冊子版(無料)は、資金調達や節税など起業後に必要な情報を掲載しています。起業間もない時期のサポートにぜひお役立てください。
関連記事
自己資本比率から分かることとは?企業の安全性を見極めるための基礎知識
再び起業を目指す方必見!こんどこそ失敗しない起業のコツ

(編集:創業手帳編集部)

創業手帳
この記事に関連するタグ
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す